2012年03月05日

蛇を踏む(川上弘美)

2002年12月に書いた独読日記より再掲。

蛇を踏む (文春文庫)

蛇を踏む (文春文庫)

著作者:川上 弘美

出版社:文藝春秋

価 格:440 円




現在旬の作家の小説を題材にしようということで、「蛇を踏む」を読書会で取り上げた。読書会の主旨に「たまには小説を読み込んでみよう」というのがあり、「読み込む」ことなしには会が成立しないのだが、果たしてどう「読み込めるか」。読み手が試されているような作品である。小説は必ずしも「読み込む」ことが必要かどうかという問いも含めて。

主人公のサナダさんは数珠屋さんの店番をする女性で独り暮らし、彼女の家に母と名乗る「蛇」が突然居座ることになるのだが。。

「蛇の世界は暖かいわよ〜」と蛇はサナダさんを自分の世界に引き込もうとするが、彼女は「蛇の世界」に惹き付けられるところもみせるが、拒絶感も抱いている。結局「蛇の世界なんてないのよ」ときっぱりと断言するのだが、「蛇の世界」とは一体何であろうか。
僕は「蛇の世界」というのは、もっと人(ここでは蛇も)と人が密接に付き合って生きていくような世界だと解釈し、「蛇の世界」ではないサナダさん自身のこれまでの生き方は、人づきあいについて距離感を保とうとしてきた生き方ではなかったかと思う。そういう自分を肯定して生きてきたが、だがもっと周りの人たちのように、べったりとした人と密接に触れ合っていくような、そんな自分になりたいとも思っている。
現代人の対人関係の距離感を描いているのかと。

「蛇の世界」に行くのか、「今の世界」にとどまるのか、といっちゃうと、ずっと以前のこの日記にも書いた(※ずっと下を参照)、村上春樹の「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」のパロディかということになるが(笑)、この作品の押しの弱さをあえてあげるとすれば、「蛇の世界」とそれに対する「今の世界」の、双方の提示の仕方に深みがないかなーと思う。ただ作者がそこまで考えて書いているかどうかは疑問。

ところでこの作品の中に出てくる蛇について読書会の参加者は、リアルな蛇を思い浮かべるということだったが、僕は「水玉模様やパステルカラー」の蛇をイメージした。怖くなんて全然ないと(笑)。作者のイメージは僕に近いんじゃないかと思うんだが。違うかなー。


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Posted by なみログ at 14:57 | 文学(日本)